『徒然草』百九十五段「ある人、久我縄手を通りけるに」

 

 [原文]

  ある人、久我縄手を通りけるに、小袖に大口着たる人、木造りの地蔵を田の中の水におしひたして、ねんごろに洗ひけり。心得がたく見るほどに、狩衣の男二三人出で来て、「ここにおはしましけり」とて、この人を具して去にけり。久我内大臣殿にてぞおはしける。

  尋常におはしましける時は、神妙にやんごとなき人にておはしけり。

 

 [意訳]

  ある人が久我縄手を通ったら、下着姿の貴族の人が、木で作ったお地蔵さんを田ンぼの水におし浸して、一所懸命洗っていた。「何じゃ?」と思って見ていたら、狩衣姿の男達二・三人がやって来て、「ここにおられたよ」と言って、この人を連れて行った。久我内大臣殿(通基)であられたのだ。

  あっちに行っちゃう前は、本当に気品のある方であられた。


(2008/10/04掲載)